駅員さんや電車の運転手さんが、目標に向かって指をさして独り言を言っている風景を見たことがあると思います。


「指差確認喚呼」

と近鉄に勤めていた頃には、そう呼んでいましたが、指差喚呼と呼ぶこともあります。目で確認をした時に、指を指して更に確認をするという行動です。鉄道では1人で仕事をする機会がとても多くあります。ホーム係や運行係、アナウンス係、大きな駅で沢山の駅員さんがいても、長い列車になると100mを超えるので、ホームに立つ時でも、かなりの間隔をおく必要があるので、一人ひとりが大きな責任を持っています。


指をさして1人でブツブツと独り言を言う指差確認喚呼、いったい何を言っているのかと言うと、

「私の中の私が目標物をちゃんと見ました」


と、自分に問いかけている行動です。例えば、ホームで電車が通り過ぎた後に、電車の後方に向かって、指をさして”
ヨシ!”と言います。このヨシは沢山の事を確認して、まとめた言葉です。熟練した言葉の使い方で、新人社員が同じことをしたら叱られます。
「何を見て”ヨシ“と言った?」
と注意されます。目標物を言葉に出してひとつひとつ確認することを教わります。


「線路への落下なし、安全ヨシ」
「電車の後方灯、ヨシ」
「行き先表示板、ヨシ」

物事の動きをそれぞれでチェックをして、目と指と言う異なる視点から、私の中の私と一緒にチェックをすると言う行動です。


鉄道の世界だけでは無くてビジネスにも使えます。書類のチェックにはとても有効だと思います。携帯電話のショップでは説明した箇所にマーカーでチェックを入れて、きちんと説明したと自分とお客さんの両方に見せるのも、この考え方と同じです。


莫大な書類の山を目だけ追って次から次へと処理すると、ついつい漏れが出てしまいます。鉛筆でチェックしたりと工夫もできますが、後で消さないといけないことがあったり、マーカーが使えない場合もあります。その時には、ボールペンを指先に変えて心の中で、「○○ヨシ!」と私の中の私に確認をするように命じることが、ミスを防ぐ一つになります。

営業も同じです。契約書類の取り交わしで数枚に印鑑をもらったり、住所や名前を書く場所が多いと、うっかりが出やすいものです。慣れない時には、印鑑や名前ををもらう書類の一覧表を作っておいて、最終段階で契約書類と一覧表を照合して漏れがないか確認する方法もあります。新人でやっとこさ取れた契約では印鑑をもらったら、相手の気持ちが変わる前にサッサと帰りたいと思ってしまう程、精神は安定していませんが、そこはプロの顔をしていつもやっているんだぞ!の風景を醸し出して、ゆっくりとチェックすることで、相手の安心感も生まれるものです。


「対面営業の時間軸は自分と相手では異なる」


早くチェックを終わらせてスマートな姿を見せたい、営業で喋っている時に相手が長い間沈黙されると不安になって、こちらが喋ってしまう。良くありがちな話です。大事なことは時間の流れが人によって異なる、自分と同じ気持ちの時間で時は流れていない、と言うことです。モタモタして焦って早くしないと、と思っていても相手の時の流れはゆっくりと流れていて、焦っているとは思っていないこともあります。仕事では私が私をコントロールすることが求められます。

鉄道の社員になった気分で、目の私、指先の私に「ヨシ」と言って仕事をするとミスも減ります。間違いを起こしそうな時でも使える自分への確認、正しく仕事をする儀式だと思って取り組んでみてください。


今日も一日、頑張っていきましょう!