鳥取県境港市には水木しげるロードと呼ばれる、地域の活性化事業で大成功した街がある。誰でも一度くらいは耳にしたことがある、ゲゲゲの鬼太郎を世に送り出した、水木しげる先生の生まれ故郷だ。
その商店街を歩くと、ブロンズ像の妖怪に会える。177体?くらいあるというが、そこは面白い場所だ。今の自分が鏡に映る妖怪に出会えるからだ。一体一体、足を止めて妖怪の生き様を読み解くと、結構時間は掛かるが是非トライして欲しい。
「嘘だよ?」と思う方が多いかもしれないが実際に訪れると、きっとそう思う。思えなかった時には仕方ないので、妖怪神社で石の目玉をグルグル回して、幸せを祈願すれば良い。
猛烈に忙しくマグロの姿となって、山陰は勿論、東京や海外に出掛けて、殆どの時間を仕事に費やしたことがある。損害保険やコンサルティングには、これで完璧!が無い仕事だ。より良い提案をしたいと思えば思う程、想定を山ほどしなければならない。8時間の勤務では到底終わらず、16時間、24時間、土日祝日、365日と、決して良くない悪魔のルーティンに捕まってしまう。自分はそれが正しいと思っているから、人から大変だと言われても、至って何とも無いものだ。きっとその時の自分は、黒いヘルメットで顔を隠して、ダークサイドに堕ちていたのだろう。
ある時、お客さんの近くに水木しげるロードがあったので、時間潰しに寄ってみた。本当にたまたまだ。
そこで出会ったのが、「いそがし」という妖怪である。やたらあくせくして、じっとしていると罪悪感が押し寄せて、誰かに先を越されるのでは無いかと動き回る。動くことで妙に安心して、また動き出す。
妖怪ブロンズ像をじっと見ていると、自分が真っ黒い姿のダースベイダーのように思えた。「人からみたらこんな風に見えるのかも?」と思えた。忙しいだけなら良いが、舌を長く出して走る姿は、全くもってカッコ悪い。
その時から、負の連鎖が始まったり、悪い方に引っ張られそうになると、「ダークサイドに堕ちそうになったわ!」と独り言を言うようになった。
そろそろ春の訪れである。まだまだ外出することはできないかもしれないが、弱った時には、自分の姿を映し出す妖怪を探しにきて欲しい。ハッと、我に帰ればきっと現実に戻れるはずだ。帰る時には、目玉の石をグルグル回すことを忘れないように。