日本全国でも最大級と言われ、長さ30mと20mの登り窯が威風堂々とたたずむ場所が島根県の温泉津町にあります。

世界遺産に登録されています石見銀山の近くにあり、質の良い土ときれいな水、豊富な木材もあり、焼き物の生産地としても栄えて、北前船の出入港であった温泉津港から全国へ積み出されました。

幕末から昭和初期まで大いに賑わいましたが、器も焼き物からプラスチックに変わる新時代が到来して衰退の道を辿りました。その中で2つの登り窯が残っているのは大変貴重です。

外資系の保険会社に入社して営業未経験の素人が山陰を飛び回っていた頃に、トイレを探し求めて偶然見つけた場所です。その頃は飛び込み営業一本でしたから、ハツカネズミのごとく動き回って、会社に訪問したものです。

営業で何が一番辛いかと言うと、

「今日の行く所が無い」

ことです。これは本当に辛いです。「おはようございます。」と保険会社に着いて席に座っても、何もやることがありません。本当に。

仕方ないのでパソコンを開いても、メールなんか来ている訳もなく、それでも送受信のボタンを無意識に押して、0件と言う神様からのお告げを聞いて朝から虚しくなります。

顧客訪問リストを見ても見込み度なんてありはしません。殆どがランク外のDです。期待と希望も込めて上司にはBランクで見込みがありそう、と伝えていますが、「見込みが有ればAにするわ!」と自分を慰めて、ごまかしたものです。

朝礼では昨日の契約件数とその保険料を発表します。ああだこうだ、なんて理由は聞かれませんので、数字だけを伝える儀式で、おまけに模造紙に棒グルフで色を塗られます。

「昨日は0件です」

この言葉は入社間もない頃は平気に言えますが1ヶ月が経ち、2ヶ月目も近づく頃になると、どんどん追い込まれていきます。テープレコーダーに仕込んだ言葉を再生すれば済むくらいに、「今日は0件」を機械になった気分で発表します。棒グルフも私の所だけ、ガクッと落ち込んで真っ白です。

そんな状況なんで、会社に居てもやることなんか、これっぽっちもありません。そんな時には必ず悪魔が悪さをします。

「髙橋さん、○○会社の□□さんから電話です」

「あっ、昨日行ったお客さんだ!」と喜び勇んで電話に出ます。

「髙橋です。昨日はお忙しい所突然の訪問でご迷惑をお掛けしました。その後もお話を聞いていただきありがとうございます。」と

期待度満点で話しても相手のトーンはなんだか低い。

「昨日来た時にボールペンを忘れていない?良さそうなものだから、いるんじゃないの?事務員に渡しておくから」

もう最悪です。電話が掛かって恥ずかしいし、昨日は遠方だったので、またあそこまで行かんといけんのんか・・・、と独り言を連発します。どうせアポも無いし、またあの辺を飛び込みするか?と正論に置き換えて、自分にやる気を起こさせます。

先ずはボールペンを取りに山奥の会社に行って回収作業を行います。案の定事務員さんしか居なくてボールペンを渡してもらいます。

「もしかして、折角遠くから来たんだからお客さんから何か良いことを言ってくれるかもしれん?」

そんな妄想はいっぺんに吹っ飛んで、10秒で回収は終わります。また落ち込んでその場から離れます。本当に営業が大変な時期だったと思います。今考えればおかしな話です。営業をしたこともないし、薄っぺらい保険の知識だけ詰め込んで、お客さんを探して、契約を取って来ると言うことは神業に近いと思います。

突然会社に現れた不審者に、「待ってましたよ」と言って保険に入る人なんて、いる訳がありません。

でも、営業は行動が全てです。会話やスキル以上に行動が契約に至るための高い要因を持っています。ニーズがあるお客さんに出会うまでは、プロでも素人でも関係無いからです。飛び込み営業に分厚いパンフレットなんか不要です。鞄も重たいし、10冊も持ったら一週間ずっと鞄の中に入りぱなしです。紙一枚の薄いチラシと名刺と喋るための口、その3点セットで十分です。

営業の基本はチャンスを求めて動くだけです。動くと何か起こります。そんな駄目な営業でしたが動けば良いこともいつかは生まれます。次回は第一号の契約のお話をしたいと思います。そのお客さんとは未だに繋がっています。本当に有り難いことです。

最後に。

残念ながら県内でも、この登り窯を知らない人は案外多い感じがします。陶芸体験が出来たり、年2回開催されます” やきもの祭”の1週間前、登り窯に炎が入る様子を見ることができますので、是非訪れてみてくださいね。

今日も一日、頑張っていきましょう!