島根県の出雲市大社町には、出雲日御碕灯台があります。日本一の高さを誇る白亜の灯台で、真っ白の灯台と真っ青な空と海、汗をかいて、てっぺんまで登って見る風景は、まさに「絶景かな!」です。

出雲大社に参拝された観光客なら、ここは定番コースなんで大体が訪れます。私も数回訪れていますが、市内からそこそこ遠いので、滅多に来ない場所です。きっとたまに来るから新鮮に見えるのでしょうね。

こう言う所には、必ずお土産店や食事をする店があります。地元で取れたサザエやイカは名物なんで、向かい合ったお店や隣がライバルですから、自分のお店に招き入れようと態度も少々過激になることもあります。

店頭販売のおばちゃんほど底なしに強敵の営業レディーはいません。コンロで焼いたサザエの匂いで誘い、そっちを迂闊にも振り向いたら最後、「美味しいから食べてみなさい」と、漁師言葉で圧倒されます。それでも反応が無いと思えば、店を一歩踏み出して、爪楊枝で刺したガラクタサザエの切り身を、親しみなれたカップルのように口元まで持っていきます。「美味しいです!」なんてことをこれまた迂闊に言ってしまうと、もう大敗してお店の中に引きずり込まれます。パイレーツ・オブ・カリビアンに出て来るクラーケンが、海の底に引きずり込もうとする光景によく似ていました。

そんな活気で溢れていた昭和の風景は今はありません。昔を楽しむために古びたお店に行って来ました。観光客もグッと減り平日は暇を持て余しています。コロナなんでしょうかね?、威勢の良い声も聞こえません。

入口付近は一番人が集まりやすい場所で、今風のお店が並んでいます。レトロを醸しつつ、今どきの食事ができます。ソフトクリームや海鮮丼と、オシャレなお店と美味しい食事は、若者や観光客はきっとそっちが安心・安全だと思うでしょう。本当にそうだからです。折角入った店が汚くて、マズかったら最悪ですよね。おまけに高いと来たら。

昭和のデートは何かと大変です。それも初デートだったら、彼女に認めてもらわないといけませんから、オシャレで美味しいお店を選びます。お店選びで失敗すると、気まずくなったり、雰囲気も悪くなります。彼女の機嫌を損ねないように失敗は絶対に許されません。さっきのクラーケンが手ぐすねひいて待っているお店の前なら、引きずり込まれないように真っ直ぐ向いて歩くだけです。若い時はオシャレと格好が一番大事で、最優先事項と言って良いでしょう。昭和の時代は。

昔ながらの古びたお店は、灯台の近くにあります。ここだけは令和と戦っています。オシャレで海鮮丼の品々が並んだ光景を見た人が、ここに足を運ぶことはきっと少ないでしょう。サザエとイカが香ばしい匂いで誘ってくれますが、お土産の数々は昭和に売れ残ったものが多くあります。海の砂や珊瑚が入った小さなボトルは、きっと天然記念物だと思います。

おばちゃんも今はおばあちゃんです。相変わらずぶっきらぼうな調子で、そこだけは昔のままです。それでもサザエは絶品でここまで食べに来て良かったと思います。イカも美味しいけど、こっちの歯が弱っているので、なんとも惜しい感じです。机にはビンクと水色の孔子柄のビニールがひかれて、椅子も海の家にあるようなレトロ感満載で、飾ってある品物は疲れを隠しきれません。

それでもサザエもイカは美味しいです。強敵のおばあちゃんに声を掛ける勇気も、逆ナンパをする力もこの歳になったら自然と身についていますので、適当な会話のやり取りで適当に楽しみます。適当な感じがたまらなく心地良くなります。気をよくして思わずラムネも頼むと、

「ラムネもだいぶ変わったよ。安物に見えるわ。味もあんまり好きじゃあないね。150円」

全く持って最強の販売レディーです。最後は、1000円以上買ったらガラクタの品物を2つサービスするってテーブルに書いてあったので、もらって帰りました。きっとそのまま家の何処かに埋まってしまうのでしょうが、懐かしい時間と心のゆったりを残したいと思ってもらうことにしました。

営業と似ている気がします。物事を早く知ろうと勉強して、誰よりも勉強した知識を営業と言う場面で話をします。相手が知らないと分かればこっちが有利になった気になって、商品や使い方の知識をまくしてます。自分はプロの営業マンになった気分で調子もついて、言葉に自信が溢れます。自信は人に伝わりまた営業が上手くいきます。

きっとこのスタイルは、流行りの商品を提供するオシャレな海鮮丼のやり方に似ています。多くの人にニーズに合致して成果も出やすいと思います。一方は、昔ながらのビニールの孔子柄で勝負するお店です。昭和レトロの店、言い換えれば時代に取り残されたお店です。強みは心の安心感と、居心地の良さです。そして今は優しくなったおばあちゃんかな?

どっちの営業も正しいです。

だから営業は難しい。

サザエが美味しい日御碕灯台、是非訪れ欲しいですね。

今日も一日、頑張っていきましょう!