若い時に勤めて職場には、昼休みになると必ず休憩室に現れる、キャリアが滲み出る保険レディが登場していた。必ず来るので別の支店の社員さんが用事できていると思った程だ。時には子分のような若いレディも連れてくることがあった。どう見ても正反対の装いで、反対過ぎて普通の女性も、飛び切りな美人に見えてくるのは、キャリアが滲み出るレディの作戦だったに違いない。
だいだい 飴を配る。最初のドアノックとしての武器だ。「お○ちゃん、これ美味しくないわ!」と文句を言えば、次に会った時には、「若いもんは、こんなんが美味しいのかね?」と、小袋のポテトチップスをもらったこともある。
これで距離が詰まってきたと直感で感じたら、いきなり本題のストレートパンチが炸裂する。
「若い時から保険に入ったら安いし、貯まる保険もあるから、歳を取った時に安心だよ。あんた若いから何も知らん、ちゃんとやっといてあげるから、お○ちゃんに任せんさい」
こんな感じの会話だったと思う。しかしこれで終わらない。
「これ作っておいたんで、あんたも仕事で忙しいから、ちゃっちゃとやっとたらええねん!」
と大阪弁で怒涛のクロージングに入る。何故か私の生年月日が書いてある保険の申込書を持っている。個人情報なんて絵空事の時代で、仲の良い庶務のオッサンから聞き出したに違いないと思った程だ。それか同期の密告者か。何にしても調査力は凄い。
お金が無い私にとって、遊ぶ金はあっても、保険に払う金は無い、と適当にごまかすと、最終兵器の落とし文句で勝負に出る。
「あんた島根から出てきたんで何も知らんから、どうせろくな彼女じゃないんでしょう。お○ちゃんがとびっきりの美人を紹介してあげるから、今度いつ休みなん!」
こんな感じだった思うが、若い男の急所を次々と狙って落としていく。当時は敬遠していたが、同じ職業として尊敬できる。確かに内容も教えず強引なのは問題もあるが、若い時に無理矢理保険に入らされて、歳をとった時に、お○ちゃんにありがとう!と言う日がきっと来ると思う。
女性と縁が無かったり、奥手な男性と女性を繋げる、無償の結婚紹介コンサルタントであることは、今でも必要な存在だと思っている。それに皆さん逞しい!。若いもんにおちょくられたり、冗談を言われたり、怒こられても、それでも保険レディはやってくる。この堂々たる姿は男性では持ち得ない力だと尊敬している。
時代はそんな姿の営業は、世間からの評判も悪いし、コンプライアンス違反だという。確かにそう思える節はあるし、中には悪人もいるだろう。でも私の出会った、キャリアが滲み出たレディは、人のためにお節介を焼いて、あんたのためになるからよ!と真剣に思って仕事をしていたように見えた。多分・・・。
飛び切りの美人を紹介してもらう話は断ってしまったが、出会っていたら、飛び切りの人生だったかもしれない。惜しい・・・、と思うようでは、飛び切りのお○ちゃんには、まだまだ勝てませんね。